SS「君にありがとう」

おめでとうジャパン！　ありがとうイナズマイレブン！

ということで、１２５話後（決勝の夜）の話で、どっちかっていうと友情寄りの円風。
抱き合ったりしてるけど、特にイチャイチャはしてません。

ｐｉｘｉｖにも同じ話を上げてます。

　＊　＊　＊　＊　＊

　ＦＦＩ優勝という感動と興奮に満ちた一日も、そろそろ終わりに近づいている。
　海辺の胴上げから宿舎の食堂に場所を移し、チームメートたちと大騒ぎをしながら、もう一度喜びを分かちあって。
　そしてこうして引き上げてきた自分の部屋の窓辺で、円堂は一人、ライオコットの星空を眺めていた。

　つい先ほどまでの喧噪が嘘のような静けさに、ふと「自分は嬉しすぎる夢をみているんじゃないか」などと、壁山のような心配が浮かんでくる。
　けれど、ゆっくりと深呼吸をしてみても、頬をつねって見ても、嬉しすぎる現実は夢などではありえない。
「世界一、か……。オレ……いや、オレたち、やったんだよな……！」
　確かめるように声に出すと、ぐっと胸の奥が熱くなった。その熱が、喜びが瞳から溢れて、輝く星がじわりと滲む。

　そんな円堂の背中で、コンコン、と控えなノックが響いた。
「円堂、ちょっといいか？」
「あっ！　か、風丸……？」
　気心の知れた相手は、円堂の返事を待たずにドアを開いた。慌てて目元を擦った円堂に、部屋をのぞき込んだ風丸が驚いた顔になる。
「なんだ、どうかしたのか？」
「いや、ちょっと、その……やっぱり嬉しくなっちゃってさ」
　正直に白状した円堂に、風丸は「そうか」と笑った。
「まだ気持ちが落ち着かないなら、一人でいるよりみんなと一緒にいた方がいいんじゃないか？　とても眠れないって、食堂にもまだ何人か残ってたぜ？」
　言いながら、円堂の側まで来た風丸は、誘うよう右手を差し出した。
「ほら。どうする？　行くか？」
　まっすぐに差し出されたその手に、円堂ははっと息を飲んだ。
　懐かしい光景……イナズマジャパンの原点である雷門サッカー部が帝国学園から１点を取るよりももう少し前……そう、その試合のために動き出した瞬間の光景が、円堂の脳裏にフラッシュバックする。
『乗った！　お前のその気合い』
「あ……っ！」
　そうだ、円堂には風丸に伝えなければいけないことがある。
　けれど伝えるべき言葉は纏まらず、上手く喉から出てきてくれない。
「風丸！　その、オレさ……っ！　っ……」
「おいおい、本当にどうしたんだよ？　って、オレもまだ興奮してるから、あんまりお前のことは言えないかな」
　呼びかけておいて急に言葉に詰まった円堂に首を傾げ、そして苦笑した風丸が、ふと顔を上げた。
「そうだ。円堂、実はオレ、お前に言いたいことがあって来たんだ。まだここにいるなら、聞いてもらってもかまわないか？」
「あ、うん。なに？」
　頷いた円堂にまっすぐに向き直り、風丸は突然、深々と頭を下げた。
「……ありがとう、円堂」
「えっ？」
「オレが走るべき場所を教えてくれて。オレをサッカーに出会わせてくれて、本当にありがとう」
「かぜ……っ」
　驚き息を飲んだ円堂に、顔を上げた風丸は左目を隠す前髪を直し、照れくさそうに笑った。
「ははっ。ずっとお前に礼が言いたくて、でもなかなか言えなくてさ。だから今日、試合に勝ったら言おうって決めてたん……うわ！」
　向けられた感謝が暖かくて、嬉しくて、胸の奥が熱い。衝動的に手が伸びて、円堂は風丸をぎゅっと抱きしめてしまっていた。
　そしてゆっくりと考えを巡らせる。きっと風丸があの時助っ人に入ってくれなかったら、そして挫折を越えてもう一度走り初めてくれなかったら、イナズマジャパンは、円堂は、きっと今日のこの場所には立っていなかっただろう。
「風丸っ！　オレもずっと、風丸に言いたかったことがあるんだ。言わせて欲しい」
「あ、ああ」
　突然の抱擁に驚きながらも頷いてくれた風丸を、もう一度しっかりと抱きしめる。
　繰り返しになってしまうけれど、風丸に伝えるべきことなど、一つしか思いつかない。
「……ありがとう。オレと一緒にサッカー、やってくれて。ここまで一緒に来てくれて、ありがとう風丸」
「なっ、んだよ、そんなの別にオレだけじゃ……っ」
　言い返そうとした風丸の語尾が、不自然に揺らいで消えた。言えなくなった言葉の代わりに、風丸は円堂の背中に腕を回して、しっかりと抱きしめ返してくる。
　その力強さと温もりに、なぜかまた視界が滲んでしまったけれど。それでも円堂は、満面の笑みを浮かべていた。


　＊　＊　＊　＊　＊


タイトルまんまですね。

決勝終わったらこの話を書くんだと決めてたんですが、
先にキャラソンで風丸さんに気持ちを歌われるとかなんたる有様！
本望っていうかまさに「ありがとう！」だわ！　風丸さんが好きです！（知ってる！）