SS「分かち合う」

アニイレ95話を円風に解釈したSS。
あんまり本編沿いでもないですが、とりあえず問答無用で円風です。

これをもうちょっと掘り下げつつゲーム展開に沿わせたものを
9月に本として出したいなーと思ってますー。

　＊　＊　＊　＊　＊


「すまん、円堂……」
　二人きりになった途端、呻くように呟いた恋人に、円堂は目を見張った。
「……風丸？」
「おまえの代わり、務めきれなかった……」
　ジャージの左腕にキャプテンマークはない。けれど風丸はその場所をぎゅっと握りしめる。

　円堂が居ない。だから自分が代わりになって、チームをまとめなければ。……そんな気負いは空回りして、風丸はチームメイトたちがばらばらに動いていることに気がつくことができなかった。
　スライディングで３点目を阻止することはできたものの、無茶をしたせいで怪我をして、交代することになってしまって。ベンチから声を枯らしてみたけれど、結局、イナズマジャパンは勝てなかった。
　……風丸たちは、円堂の居ない試合に負けてしまった。

「お前の代わりどころじゃないな。オレは、なにも出来なかった……」
　ゴールを守っていたのも、必殺タクティクスを破ったのも、そしてチームメンバーたちを連携させたのも、奮起させたのも風丸ではなかった。円堂の代わりを務めたいという気持ちは、なにひとつ形にならなかった。
　無力な自分が悔しくて、情けなくて、涙がにじみそうになる。
　とっさに顔を伏せた風丸は、次の瞬間、ぎゅっと円堂に抱きすくめられていた。
「……そんなことないよ。風丸はあの場所に……フィールドの上に、いてくれたじゃないか。オレの代わりにさ……」
　違う。慰めて欲しいわけじゃない。
　反射的に円堂を振り解こうとした風丸は、背中に回されている腕が震えていることに気が付いて言葉を飲み込んだ。
「風丸がキャプテンマークつけてくれてるの見た瞬間、少しだけ安心したんだ。任せたぞって。オレはそこに行けないけど……って……でも……」
「えん、どう……？」
　普段の明るさからはかけ離れた、低く苦しげな声。驚いて円堂の顔を見ようとした風丸を身動きできないほどしっかりと抱きしめたまま、円堂はその耳元で言葉を続ける。
「何もできなかったのはオレの方だよ。走ったけど間に合わなくて、戦う風丸たちをＴＶで見てるだけしかできなくてっ……オレは、キャプテンなのに……！」
　キャプテン…そう言いながらも、こぼれ落ちたのはつい今しがた落ち込むチームメイトたちを明るく励まして前を向かせた『キャプテン』の言葉ではなく、『円堂守』の言葉だった。
「なにも……なにも出来なかったんだ……っ！」
「円堂……」
　恋人という立場だからこそ聞くことができるその本音と、めちゃくちゃに抱きしめてくる腕から伝わってくる悔しさ。それが、風丸をほんの少しだけ落ち着かせる。
「そうか……オレのこの悔しさは、今お前が感じている悔しさと同じなんだな……」
「えっ……？」
　言いながら腕を伸ばして背中を抱き返した風丸に、円堂の力が少しだけ緩む。
　その隙に風丸はぴたりとくっついていた身体を少しだけ離して、揺らぐ視線をしっかり円堂と合わせた。
「なあ、円堂。試合中にキャプテンの…お前の代わりがちゃんと出来たとは言えないけど……今日のお前の悔しさ、オレが半分引き受けてもかまわないか？」
「っ！」
　息を飲んだ円堂が泣きそうに顔を歪め、こつん、と風丸に額をぶつけた。
「うん。……ありがとう、風丸……」
　言葉に出来ない悔しさを二人で分かち合うために、円堂と風丸はもう一度、お互いの背中をぎゅっと抱きしめ合った。


　＊　＊　＊　＊　＊


弱ってるようでけっこう強い風丸さんと、
あれはさすがにカラ元気だった円堂さんという解釈で。

以下、この後きっとこうなるよ、というおまけの会話文。


＜おまけ＞
「……痛っ……！　あっ！　風丸、そういえば足！　大丈夫なのか？」
「ああ。ひどく捻った割に、痛みが引くのが早くて……って、円堂？　痛そうだったけど、どうかしたのか？」
「うう…っ、ごめん風丸、そこ触られると、ちょっと痛いんだ……」
「そこって……背中？　見せてみろ……うわ、なんだよこの痣！　あっ、こっちも！」
「いやあ、チームＫのシュート食らったり、ペンギン止める時にゴールポストにぶつけたりたからさぁ……」
「馬鹿っ！　怪我してるんなら早く言え！　マネージャーから湿布もらって来るから、そこでおとなしくしてろよ！　いいな！」