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Nさまよりいただいたリクエストの円風。
> 円風SS「夢か、現か…」 の円風逆バージョン。
> 円堂さんと同じ行動をする風丸さん。
ってことは、「不安な円堂さんを寝ぼけて励ます風丸さん」が正しかったはずなんですが、
不安定なのは寝ぼけてもやっぱり風丸さんの方になってしまいました。
なんていうか、逆バージョンというのは苦しい感じに別物です。すみません……。
とりあえず、時系列は2期~3期の間の雷門中サッカー部になりますー。
* * * * *
いち、に、いち、に……というかけ声と一緒に、白い息が吐き出される。
その白さを突き抜けて走りながら、風丸は嫌な汗の滲むこめかみに、きつく握った拳を押し当てた。
重く響く頭痛に合わせてぐらぐらと揺れる視界は、ひどく狭くて暗い。朝からずっと落ち着かない胃も、むかむかと吐き気を訴えている。
いつものようにサッカーの練習をするには体調が悪すぎる。そう自覚しているし、その原因にも心当たりがあった。
けれどそんな自分の状態を一緒にランニングをしている雷門中サッカー部のメンバーたちに……特に、すぐ目の前を走る背番号1番には知られたくなくて、風丸は必死で足を前に進めようとした。
「あ……!」
けれど踏み出した膝から力が抜け、ぐらりと身体が傾ぐ。これはまずい、と思う間もなく、風丸の意識は暗闇へと飲み込まれていた。
「きゃあっ!」
「うわっ! おい、大丈夫か?」
ベンチから上がった悲鳴と背後で聞こえた緊迫した声に、先頭に立って走っていた円堂は振り返り、そして血相を変えた。
「風丸っ? どうしたんだ!?」
地面に倒れ伏している風丸に駆け寄って、その上半身を抱え起こす。けれど、ぐったりと目をつぶった風丸は反応を返さない。
「っ! ……いったい何があったんだ?」
動揺を隠せないまま顔を上げた円堂は、風丸より後ろを走っていたはずのチームメイトたちに視線を向けた。
「ふらついたと思ったら、そのまま倒れたんだ。そういえば走り方がおかしかったから、部活が始まる前から体調が悪かったのかもしれないな」
「その可能性はあるな。呼吸はおかしくないようだが、顔色が悪い」
円堂の左右から風丸をのぞき込んだ鬼道と豪炎寺の言葉、真っ先に声を上げた染岡が、記憶を辿るように顎に手を当てた。
「そういえば風丸の奴、最近あんまり寝れてねぇって言ってた気がするな」
「寝てない? なんで?」
目を見張った円堂に、染岡がそこまで知らねぇよ、と頭をかいた。
「円堂くん、それより保健室に!」
「あっ、そっか、そうだよな」
ベンチから駆け寄ってきた秋にそう促され、はっと我に返った円堂は、心配そうな顔で集まっている部員たちをぐるりと見渡した。
「オレ、ちょっと風丸と保健室まで行ってくる。みんなは練習を続けていてくれ。鬼道、頼むな」
わかった、と鬼道が頷いたのを確認して、円堂は抱えていた風丸を、そのまま横抱きにして立ち上がった。
「えっ!? ちょ、キャプテン、それってお姫さまだっ……っ、いえ、なんでもないです。気をつけて行ってきてください」
思わず指摘しかけた春奈が、不謹慎さに気づいて慌てて言葉を言い換えた。
ああ、と頷いて、風丸を大切そうに抱えたまま歩きだした円堂の背中に、半田が苦笑ともため息ともつかない声で呟く。
「あーあ。あれ、風丸が起きたら、絶対めちゃくちゃ怒られるぞ?」
「でしょうね。あのまま保健室に行ったら、かなりの生徒の目に触れることになりますし……」
同調した目金に、けれど松野がおもしろそうに笑った。
「まっ、仕方ないんじゃない? 寝不足で倒れたんなら、風丸の自業自得だしね」
たしかにそうかもしれない、という納得で心配を振り払いながら、グラウンドに残されたサッカー部員たちは今日の練習を再開した。
たどり着いた保健室で、保険医から告げられた風丸の病状はやはりただの寝不足、そして疲労ということだった。
このまま休めば大丈夫だから部活に戻りなさいという指示に、円堂は断固として首を振った。
「お願いです! せめて風丸の目が覚めるまで、ここに居させてください!」
そのあまりの真剣さに、保険医は苦笑しながらも、円堂の付き添いを認めてくれた。ついでにそこまで心配するからには何か事情があるのだろうと、さりげなく席まで外してくれたのだった。
そんな保険医の配慮に感謝しつつ、ベッドの側に椅子を引き寄せた円堂は、眠る風丸を神妙な顔で見つめた。
「風丸……ごめんな」
……本当は、円堂は今日の風丸の調子がおかしかったことに、部活が始まる前から気がついていた。さすがに原因が寝不足だということまでは判らなかったけれど、円堂はそれだけ風丸のことを気にしていたのだ。
風丸が何も言わないから、あえて部活に出ることを止めなかった円堂だが、風丸が倒れてしまった今、それは重大な判断ミスだったことになる。
円堂はぐっと唇を噛んだ。
体調が悪いことも、それに寝不足になるような何か原因があったのならそのことも、なんでも話してくれればいいと思っているのに、風丸はそう簡単には、円堂にすべてを伝えてくれるようにはならないらしい。
「風丸……」
囁くように名前を呼んで、円堂は眠る風丸の傍らに顔を伏せた。
「オレさ、あれからずっとお前のこと、全部受け止めたいって思ってるんだけど……オレじゃあ足りない?」
呟いたところで、風丸が僅かに身動きをしたような気がした。顔を上げると、風丸の榛色の目が揺らぎながらぼんやりと円堂を捕らえていた。
「風丸! 目が覚め……あれ?」
「えん、ど……」
呼ぶ声がおぼつかない。どうやら、風丸はまだ半分眠っているらしい。
きちんと起こすべきか、このままもう一度寝かせるべきか。一瞬迷った円堂に、寝ぼけたままの風丸が、突然両手をさしのべてきた。
「えっ? かぜ……っ!?」
「……ちがうんだ……すまん、えんどう……」
巻き付いた腕が円堂の頭を引き寄せる。息を飲んだ円堂の唇に、謝罪と同時に風丸のそれが重ねられた。
「……っ!?」
「オレ、おまえが……すき、なんだ……。ごめんな……」
突然のキスに驚いて固まっていた円堂だが、今にも泣きそうな風丸の告白を聞いた瞬間、すべてを理解した。風丸の円堂へのその気持ちが、風丸を眠れなくするほど悩ませている原因なのだろう。
「なっ……あ、謝るなよな!」
力を失ってぱたりとシーツの上に落ちた風丸の両手を、円堂は勢い良く握りしめる。
「心配しなくたって、オレだって……オレだって風丸のこと……っ!」
ぎゅっと風丸の手を握ったまま、耳元で「大好きなんだよ」と囁くと、辛そうだった風丸の表情がふわりと柔らかくなった。
「ありがとう、えんどう……」
嬉しそうに笑ったまま、風丸の目が閉じられる。すぐに聞こえ始めた静かな寝息に、円堂はいつの間にか詰めていた息を大きく吐き出した。
「風丸、まさかそんなことで悩んでたなんて……」
円堂にとって、風丸は誰よりも大切で誰よりも近くに居たい存在だった。
すれ違って離れて、戦って……無事に取り戻すことができて、自分の気持ちに改めて気がついた円堂は、風丸をもう絶対に離さないと決めていた。
けれど、どうやら当の風丸には、円堂のそんな決意と想いは伝わっていなかったらしい。
「そういえば、ちゃんと風丸に言ってなかったもんな。それじゃ、伝わらないよな」
危うくまた気持ちがすれ違いかけたけれど、今度は幸いにも手遅れにはならずに済んだようだ。
「それにしても今のって……夢じゃ、ないよな……?」
確かめるように自分で触れてみた唇には、柔らかな感触がまだ残っている。
なんだか夢見心地のままで、円堂は握ったままだった風丸の手を、もう一度しっかりと握り直した。
いい夢を見た。そう自覚したところで、風丸は自分が眠りから目覚めかけていることに気が付いた。
親友のはずの円堂を友情以上に好きだなんて、この先もずっと隠しておかなければいけない気持ちだろうと風丸は思っている。
けれど、あんな風に笑って風丸を受け入れてくれる円堂がいて、しかもキスまでしてしまったなんて、幸せだと思わない、なんて言ったら嘘になる。
そんな夢の余韻に浸りながらゆっくりと目を開いた風丸が最初に見たものは、ごく近い場所から自分を覗き込んでいる円堂の顔のアップだった。
「う、うわぁぁっ!?」
思わず叫んで身を起こし、風丸は自分がユニホームのまま、見慣れない場所で眠っていたことに気が付いた。もっとも、壁に貼られたいかにもなポスターや標語の数々から、ここが雷門中の保健室なのだということぐらいは判ったけれど。
「え……あ、オレ……?」
「ごめんごめん。脅かした? 風丸、練習中に寝不足で倒れたんだ」
申し訳なさそうに頭を掻いた円堂が説明してくれる。そういえば、円堂の事で悩んでいた風丸は、このところきちんと眠れていなかった。
「ちゃんと寝てたみたいだけど、もう大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫だ。だけど倒れるほど自己管理ができていないなんて、運動部失格だな。……ごめん」
うなだれ、反省をそう言葉にしてから、風丸はふと、ベッドの縁に乗る円堂の手を見つめた。
「円堂、もしかしてずっとオレについててくれたのか? ってことはさっき、手を……」
えっ?と聞き返され、それは夢の中の出来事だったはずだと思い直す。目が覚める瞬間まで、円堂の温かな手が、風丸の手を包んでいてくれたような気がしていたのだけれど。
「なんでもない。けど、円堂がそこにいてくれたおかげで、いい夢が見られたかもしれない。ありがとう」
「そっか。ならよかった。」
笑った風丸に一瞬だけ目を見張った円堂はすぐにいつもの笑顔で頷いた。
「じゃあオレ、そろそろ練習に戻るけど、風丸は今日はこのままここにいること。部活が終わったら着替え持って迎えにくるから」
「いや、オレはもう……」
「駄目。ええっと、キャプテン命令」
円堂にしては珍しい物言いと目前に突きつけられた人差し指に、苦笑しながら頷く。ずいぶん心配と迷惑をかけてしまったのだし、ここは大人しく円堂の言う事を聞いておくべきだろう。
「……わかった」
「よし。それじゃあな……ああ、風丸」
頷いて立ち上がり、数歩行きかけた円堂がくるりと風丸を振りかえった。
「ん? まだ何か……っ!?」
ベッドに駆け戻ってきた円堂が、そのままの勢いで上半身を乗り出した。一瞬のうちに風丸の唇が塞がれる。
「さっきの、全部夢じゃないからな!」
「え……? 今の……え、ええええっ!?」
唇から伝わった現実に風丸が状況を理解した頃には、身を翻した円堂は、ベッドを仕切っていたカーテンを揺らして走り去っていた。
* * * * *
前と同じシチュエーションだと内容まで被っちゃいそうだったから、
なんとか変えようと一つ目のリクで落とした保健室設定を引っ張ってきたら
そっちが暴走しました。いろいろ諸々申し訳ありませんNさま…!
読んで、少しでも良いと思っていただければ良いのですが…。
それから、リクいただいてから大変お待たせしてしまったお詫びと、
何度も何度も背中を押していただいたという超個人的な感謝を込めて
1月2日、円風の日にあわせての更新としてみました。
そういうことばっかりしちゃう奴ですが、
今後の円風も、まったり見守っていていただければありがたいです!
(お礼SS・円風2種+α)
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イナズマサ一チ
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