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夏の円風その2。
夏祭りとおんぶのネタです。
(すいません、一度上げてからちょっとだけ修正しました。)
繰り返しますがこれでも私は円風です…!(笑)
* * * * *
町内の小さな神社の盆踊りと縁日は、これだけの人がいったい稲妻町のどこに居たのかと思うほどの賑わいを見せていた。
「……なあ円堂、この歳になって、近所の祭で浴衣って微妙じゃないか?」
周りの人波をぐるりと見渡した風丸が、着ている浴衣の帯を居心地悪そうに直した。
たしかに、円堂たちと同じ年頃で、浴衣を着ている男子はあまり目につかない。
「うーん、そうかな? オレはこの方が祭っぽくていいと思うけどな」
「お前は浴衣じゃなくて甚平だから、まだいいじゃないか」
笑って答えた甚平姿の円堂に、風丸が少しだけむくれる。
「……でも、まあいいか。せっかくの祭だしな」
「そうそう! 年に1回だしさ! それっぽい格好のほうが楽しいって!」
「ああ!」
頷きあった二人の下駄の音がカラリカラリと楽しげに響いて、喧騒に溶けてゆく。
少ない小遣いとあちこちの露天を見比べながらはしゃいでいた二人だったが、その楽しさは、つまづいた円堂の下駄の鼻緒と一緒に、ぷつりと中断されてしまった。
「うわあっ!」
「円堂っ! 大丈夫か? ほら」
派手に転んでしまった円堂に、駆け寄ってきた風丸が手を差し伸べる。
大丈夫、と頷いたものの、その手を借りて立ち上がろうとした円堂は顔をしかめ、もう一度地面に座り込んでしまった。
「痛ってぇ……」
「っ! まさか足、痛めたのか!? 見せてみろ!」
血相を変えた風丸が円堂を路肩の段差に座らせる。
片膝をついてそっと足首を探る、その指先が思いのほか冷たくて、心地よくて、円堂は思わず足の痛みを忘れて目を閉じた。
そんな円堂の様子には気づかず、うーん、と唸った風丸は立ち上がって腕を組む。
「特に腫れたりはしてないみたいだけど……痛むなら無理しない方がいいな。帰るぞ、円堂」
あっさり言った風丸に、はっと目を開けた円堂はしょんぼりとうなだれた。
「……ごめん。せっかく祭に来たのに」
「別に謝らなくてもいいさ。悪いのはお前じゃなくて、切れた鼻緒なんだしな」
慰めともつかないそんなことを言いながら、ポニーテールを解いて首の横で髪をくくり直した風丸は、円堂に背中を向けて身を屈めた。
「ほら、円堂」
「えっ!?」
差し出された背中。その意味に気付いて、円堂は慌てて首を振る。
「い、いいよ! 大丈夫! 自分で歩けるって」
「馬鹿、酷くしたらどうするんだ。いいから負ぶされって」
「でも……なんかさぁ」
思い返してみれば、小さな頃に風丸を背負ったことは何度かあったような気がする。けれど、逆の立場になるのはこれが始めてかもしれない。
円堂に当らないように髪まで直してくれた風丸なのだが、その背中に乗ることは、円堂にはどうしても躊躇われた。
渋る円堂に気付いて、振り返った風丸は、むっと顎を上げながら一度立ち上がる。
「あのなあ、オレだって男なんだぞ? そりゃ、お前と比べたら鍛え足りないかもしれないけど……あんまり見くびるなよな?」
両手を腰に当てて不満げに見下ろしてくる風丸に、円堂はぐっと言葉に詰まった。
風丸が頼りないとか、そんなことを思っていた訳ではないし、見くびっているつもりももちろんない。
ただ、自分が風丸を背負うならいくらでも背負うけれど、逆となると複雑な気持ちになってしまうこれは、男のプライドというものなのだろうか。
……きっと、風丸も円堂と同じようなことを思っているのだろうけれど。
うろうろと視線を彷徨わせ、心の中とプライド、そして現在の状況を天秤にかけた結果、がくりとうなだれた円堂は風丸に手を伸ばした。
「うう、じゃあ……お願いします……」
よし! と笑ってもう一度目の前に差し出された背中に掴まると、風丸は言葉の通り、まったく危なげなく立ち上がる。円堂よりずっと細身の風丸だが、その背中はしっかりと円堂を受け止めていた。
「ほら。大丈夫だろ?」
「うん。ごめん」
「ははっ。謝るなって。だけど、いつでもお前に世話になってばっかりだと思ったら大間違いだからな!」
笑う風丸の背中は暑さに僅かに汗ばんでいて、その体温を円堂に伝えてくる。
それは決して不快ではなく、つい先ほど足首に触れた指先の冷たさとは違った方向に心地よい、不思議な安心感を連れて来ような温もりだった。
「それじゃ行くぞ。しっかり掴まってろよ?」
「うん。……ありがとう風丸」
よっ、と気合を入れて円堂を背負いなおし、ゆっくりと歩き出した風丸に小さく礼を述べると、円堂はそっと目を閉じ、浴衣の背中と、肩から流れ落ちている長い髪へと頬を寄せた。
背負われるなんて不本意だと思っていた気持ちは、円堂をまるごと包み込んでくれるような温かさに押しやられ、いつの間にか消えてしまっていた。
* * * * *
夏をテーマにしたSS、3つのうちの2つめ。
拍手にしようと思って書いた話なんですが、どっちかっていうと、
86話の円秋おんぶが羨ましくて、うちの円風でも同じ展開やったるぜ!
……と思ったらこうなった話。逆おんぶだけど円風だい!
まあ、世間と同じネタじゃつまらないじゃない、ってことで!
円風は二人が同じベクトルでお互いを支えあいつつ、
円堂さんの方がちょっとだけ風丸さんに恋愛してて、
風丸さんの方がちょっとだけ円堂に弱いぐらいの関係が
理想みたいです。あああ、萌える萌える…!
(お礼SS・円風2種+α)
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