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 風丸さんを愛する稲妻11ブログ。現在、凪いでいます。
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なんだって今、このタイミングで!? と、思いつつアニメ1話沿い。
サッカー部に入ることを決めた風丸さんの話です。

円風はこの時点ではまだ完全に友情だと思ってるので、
恋愛っぽい描写は皆無。でも、あえて円風カテゴリに入れておきます。

だって陸上部だった風丸さんがサッカーのことを考えるってことは
私の中では円風ってことなんだもの…!



 * * * * *


 うちのサッカー部が帝国学園との練習試合をいきなり組まれてしまったことは、あちこちの運動部の間で、かなり噂になっていた。
 しかも負けたり、試合が成立しなかったりする場合は、サッカー部は即廃部になるらしい。
 サッカーやってなくても名前ぐらいは聞いたことがある、あの帝国学園を相手にして、よくもまあそんなむちゃくちゃな話があったもんだ。
 けれど円堂は、条件を飲んで試合を受けることにしたらしい。足りないメンバーを集めるために、部員募集の立て看板を抱えて学校中を走り回る姿を、オレはグラウンドのトラックから何度も見かけていた。
 そのうちに円堂は、部活中のオレの所まで勧誘に来た。
「風丸、お前、一流プレイヤーと競ってみたいって言ってただろ? もしやる気になったなら、いつでも言ってくれよ!」
 一流プレイヤーと競ってみたい……円堂にそんな話をしたのは、たしかオレがまだ陸上を始めたばかりの頃だったはずだ。ちょっと勘違いしてるみたいだったのは気になったけれど、そんな昔の話、あの忘れっぽい円堂がよく覚えてたもんだよな……。
 そんな感心はしたものの、円堂の誘いに乗ってサッカー部に入る気なんて、オレには少しもなかった。 だってオレには、陸上があるんだから。
 陸上部の練習が終わって、制服に着替えたオレは、円堂が練習していると言ってた鉄塔広場に向かった。
 もちろん、円堂の誘いをきちんと断るために、だ。


 夕暮れの広場が近づくにつれて、バシン、ズシン……と腹に響くような不思議な音が聞こえてきた。
「なんだ? この音……」
 音の正体は、広場の様子が見渡せる所まで来たところで、すぐにわかった。
 広場にある大きな木の下で、古びたタイヤを背負った円堂が、木から吊り下げたもう一つのタイヤを投げ、そして受け止めていた。
「円堂……!?」
 あまりの光景に驚いて、オレはその場に立ち尽くす。
 なんだってあんな無茶なことやってんだ、あいつは!?
 ……ああ、そういえばサッカー部って、円堂以外はまるでサッカーする気がなくて、あいつ、練習する相手もろくにいないって言ってたっけ。もしかするとあれが円堂なりの、ゴールキーパーとしての特訓なのか……?
 飲まれたように円堂を見つめていたオレの視界の端で、見慣れた色が動いた気がした。
 はっとしてそちらを見ると、円堂がいる場所を挟んだ向こう側の木陰に、こっそりと円堂を伺う雷門ジャージの集団がいた。
「あいつら、たしかサッカー部の奴らだよな……あんなとこでなにやってるんだ?」
 円堂と一緒に練習をするわけでもなく、隠れてただ見ているだけの連中にオレは思わず眉を寄せる。
 けれど、茂みに隠れた奴らの視線は、一人で特訓する円堂に釘付けになっている。唯一オレに気付いた図体のデカい一年が、ぺこりと会釈を寄越した。
 なるほどな。あいつら……まだきっかけを上手く掴めずにいるみたいだけれど、少なくとも今はやる気がないってわけじゃないのか。
 そりゃ、円堂のあんな姿を見たら、どんな奴でもちょっとぐらいは心が動くよな。まして、サッカーがやりたくてサッカー部に入ったような奴らだったらなおさらだろ。

 弾き飛ばされて地面に転がっても、背負ったタイヤに潰されても、円堂は起き上がり何度でもタイヤに挑んでゆく。両腕を組んで、オレはそんな円堂を見つめた。
「……円堂、お前……そこまでするほどサッカーが好きだったんだな……」
 オレと円堂は、けっこう古い付き合いだ。母親同士が仲が良かったから、小さい頃から良く一緒に遊んでたし、家も近い。小学校は学区が違ったから別だったけど、学外で会えばそれなりに遊んだし、夏休みやゴールデンウィークは、家族ぐるみであちこちに出かけることもある。
 でも、家族と一緒の時や、オレと二人でいる時は、円堂はあまりサッカーの話はしなかった。
 もちろん、あいつがサッカーが好きなんだってことがわかるぐらいは話してた。けど、円堂は自分の好きなサッカーの話をするより、オレが陸上の話をするのを聞いてくれている方が多かったぐらいだと思う。

 ……だから、オレは今日まで知らなかったんだ。
 円堂がこんな無茶な特訓をするほどサッカーに夢中なんだってことは。

 オレの目の前で、円堂がまた大きく弾き飛ばされるのが見えた。
 まったく……仕方がないな、円堂は。
 大きく息を吐いたオレは、組んでいた両腕をほどき、背中で組み直した。そのままゆっくりと円堂に歩み寄る。
「むちゃくちゃだな、その特訓」
「……風丸っ?」
 円堂が驚いた声を上げる。なんだよお前、自分から誘ったくせに、オレがここに来るのは予想外だったってことか? ……そりゃそうか。ずっとオレの陸上の話を聞いてくれていた円堂は、オレが陸上に夢中なことを誰よりもよく知ってる奴だもんな。
 ……それなのに、円堂はそんなオレにまで声をかけるほど必死でサッカー部員を探してたんだよな……。
「変な特訓してるんだな」
「ああ、あれだよ」
 立ち上がる円堂に手を貸しながらそういうと、円堂はベンチに置いてあるボロボロのノートを指さしてみせた。
 手にとって開くと、子供の落書きみたいなぐちゃぐちゃの線。いや、これは文字か。円堂の書く、キッタナイ字に良く似てる。けど……。
「読めねぇ……」
 オレにはさっぱりなその文字を、どうやら円堂は読むことができるらしい。
「それ書いたの、じいちゃんなんだよね」
「じいちゃん?」
 ノートから顔を上げたオレに頷いてから、円堂は夕闇にそびえる鉄塔を見上げた。
 円堂のおじいさんは、円堂が生まれる前に亡くなっていて、昔、雷門サッカー部の監督をやっていたらしい。 そのおじいさんが作ったという特訓ノートを、オレはもう一度眺めてから円堂に手渡した。
「帝国学園はスピードもパワーも想像以上さ。そいつらのシュートを止めるには……」
 おじいさんの書いた、シュートの止め方をマスターするしかない、そう言った円堂を、オレはあっけに取られて見つめた。
「お前、本気で帝国に勝つ気なのか?」
「ああ!」
 オレの言葉に、円堂はおじいさんのノートを見つめながら、一つの不安もないような顔をして頷いてみせた。
 面と向かって言うつもりはないけれど、円堂はすごい奴だとオレは思ってる。いつだって揺るがなくて、真っ直ぐ前を向いていて、絶対に諦めない。
 だから円堂が勝つんだって言えば、どんな相手にでも本当に勝っちまいそうな気はする。
 でも、いくらなんでも今回は無理がある。だって、サッカーは陸上とは違って一人じゃできないスポーツだろ?  どれだけ頑張っても、諦めなかったとしても、このまま部員が集まらなければ、円堂は帝国学園に勝つどころか戦うこともできない。円堂が大切にしてきたサッカー部だって廃部決定だ。
 ……だけど、もしそんなことになったら、円堂は……?
 オレはぐっと俯く。なぜかは判らない。けれど、円堂が大切にしているものがなくなってしまうのは絶対に嫌だと強く思った。
 いつの間にかオレは、こいつを…円堂を、戦いの舞台に乗せてやりたくなっていたんだ。
 ……そう、オレのこの手で。
「ん」
 差し出した右手を、円堂は不思議そうな顔で見つめ返してきた。
「え……あ、なに?」
「お前のその気合、乗った!」
 オレのその言葉に、不思議そうだった円堂の顔が、ゆっくりと笑顔に変わってゆく。
「ありがとう、風丸……!」
 陸上は好きだ。けれど、今のオレには円堂のためにできることがある。今のオレにしかできないことが。
 心の中でそんなことを思いながら、オレは嬉しそうにオレの手を取った円堂に笑顔を返した。
 さて、後は……。
「オレはやるぜ、お前らはどうするんだ?」
 円堂の手を握ったまま、オレは木陰に隠れたままずっとこちらを伺っていた、円堂とオレのチームメイトたちを振り返った。


 * * * * *


1話を見返してたら、勧誘に来た円堂さんに対して風丸さんがまったく興味なさそうだったり、
特訓ノートやじいちゃんの話をあのとき始めて聞いたっぽかったりと
「オフィシャル設定:古い付き合い」のわりに円風の距離がけっこうあいておりまして。
その距離感を殺さずに古い付き合いってフラグを拾って、
なおかつ円堂命の背番号2番(笑)まで繋がる話を書きたくなったわけなのです。

結果、あの鉄塔での「乗った!」が、雷門サッカー部と円風、
両方のスタートだった、という話に落ち着きました。


けっこう頑張ってアニメ本編とセリフや行動をリンクさせてみた!
行間(っていうかセリフのないところ)を考察&捏造(笑)するのって大好きですv



 

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