２ 君の歌／10の優しい恋

円風でお題　「10の優しい恋」　（モモジルシ様からお借りしました。）
順不同、スローペースで展開予定。どれも多分短いです。

１　遠くにいても　（済）
３　おでこにキス （済）
４　永遠を教えてあげる（済）
６　大丈夫（済）
８　愛してる　（済）
９　包んだ手　（済）
10　ずっと一緒　（済）

≫２　君の歌（付き合ってる円風。ただしギャグ。）

　＊　＊　＊　＊　＊


　キッチンからは、上機嫌な風丸の鼻歌が聞こえてくる。
　そちらの様子を伺いながら、円堂はこっそりとため息をついた。
『円堂、今日うちに来いよ。父さんも母さんも遅くて、オレが夕飯作るからさ』
　せっかく恋人がいるのだから、その手料理というものを一度ぐらいは食べてみたい……円堂がさりげなく何度か訴えたそんな願いを、風丸はどうやらちゃんと覚えていてくれたらしい。
　願いが適ったことはとても嬉しい円堂なのだが、風丸の手料理には、どうやらとても大きな問題があるようなのだ。
　ふん、ふふーん♪　と楽しそうな鼻歌の合間に、再びキッチンから聞こえてきた「あの音」に、円堂はびくりと背筋を伸ばす。
　だん！　だん！　と景気良く、そして非常に力強く響いたその音の出所は、おそらくは包丁とまな板。そしてなんらかの食材。
　料理などせいぜい皿を運ぶ手伝いぐらいしかしたことのない円堂でも、そのぐらいは判る。
　……普通に料理をしていたら、そんな音はまず聞こえてこないだろうということも。
「かっ、風丸～？」
「ん？　どうしたんだ、円堂？」
　たまりかねてキッチンを覗いた円堂を、風丸は笑顔で振り返った。
　その右手に、やけにしっかりと包丁が握り締められていることには気がつかない振りをして、円堂はさりげなく調理台の方を伺う。
　まな板の上には、ざっくりと切られた白菜の山。コンロでは大振りの鍋が湯気を立てているが、それ以外に特に変わった所は見当たらない。
「円堂？」
「あっ、そのー…何を作ってくれてるのかな、って思ってさ」
　慌てて答えて、円堂は風丸とまな板の白菜、そして鍋の中に見えているニンジンや大根らしき塊を見比べた。
「えっと、シチュー？」
　しかし風丸はいや、と首を振った。
「煮込みだ」
「にっ、にこみ？」
「そう。煮込み」
　まな板の上の白菜が、豪快に鍋にほうり込まれる。
「親が居ない時に良く作るけど、我ながらなかなかイケると思うぜ」
「へぇ……良く、作るんだ……」
　手早く鍋に調味料を振る風丸は、呆然と応じた円堂に少しだけむくれてみせた。
「あっ、信用してないな？」
　風丸のことは信じてるけど、あの野菜の切り方じゃなぁ……などと思っている円堂にはお構いなしで、風丸はお玉で鍋の中身をすくい上げると、ふーふーと息をかけて冷まし、円堂に差し出した。
「　……じゃあ、ほら。味見」
「う、うん」
　恋人、台所、そして味見と三拍子揃った素晴らしいシチュエーションにあっさり流された円堂は、恐る恐るお玉に口をつけた。
「あっ…意外と美味い…」
「ホントか!?」
　思わずこぼれた呟きに、風丸はぱっと嬉しそうな笑顔を浮かべる。
　だが、褒められたことにも、それを喜んでしまった自分にも照れたらしい風丸は、すぐに咳払いで笑顔をごまかしてしまった。
「あっ、いや……これ、もう少し煮込めば完成するから。円堂は向こうで待っててくれよな」
　ぐいぐいと背中を押して、風丸はキッチンから円堂を追い出してしまった。
　すぐにまた、キッチンから上機嫌な鼻歌が聞こえ始める。
「う～ん……」
　照れを隠しているせいで、さっきよりだいぶ調子の外れている風丸の鼻歌に、円堂は少しだけ首をかしげる。
　これで、本当に良いのだろうか。
「……まあ、いいよな！　煮込みは美味そうだし、それに、風丸が楽しそうだし！」
　そう結論付けて、円堂はにっこり笑うと、台所から聞こえているメロディーに合わせて一緒に鼻歌を歌い始めた。


　＊　＊　＊　＊　＊


ある方と、風丸さんの料理は漢の料理！という話をしたのを
ネタに使わせていただきました。
セオリーどおりのバカップルにしたつもりなのに、どうしてこうなった…？

ギャグでもシリアスでも、
可愛いキャプテン×超・漢前な風丸さんの円風が好きです。
なんか私の中の風丸さんのイメージは世間とかけ離れてる気がしてきた。
え？　今更…？

お題　８／１０　クリアでーす。