立綱 SS「魔法の手」

なんだかイチャイチャした立向居×綱海。
どこ？とかいつのタイミング？とかは聞かないお約束です。

　＊　＊　＊　＊　＊


　ぽん、と綱海の手が肩を叩く。そこから、暖かなものが伝わってくる気がした。
「あっ」
「ん？　どうした、立向居？」
　肩に乗る手をじっと見つめた立向居に、綱海が首を傾げる。
「綱海さん、ちょっと手を見せてもらってもいいですか？」
「ああ、いいぜ」
　ほいと差し出された両手を前にして、立向居はグローブを外して素手を晒した。
　そっと触れた瞬間、どきん、と鼓動が跳ねる。
　手は、ゴールキーパーにとっては特別なものだ。だから憧れの円堂と初めて握手した時は飛び上がるほど嬉しかった。
　綱海はキーパーではない。けれど綱海の手も、立向居にとっては特別な感じがする。
「不思議です……」
「何がだよ？」
　問い返されて、立向居は照れながら笑い、ぎゅっ、と綱海の手を握り締めた。
「だって、綱海さんの手って、オレに触っただけで元気をくれるじゃないですか」
「そうかぁ？　ははっ、そう言ってもらえると、なんだか嬉しくなってくるな！」
　笑って、綱海は立向居の手からするりと抜け出し、かかげた両手でグーとパーを繰り返す。
「手、かぁ。まあ、こんなんでお前が元気になるなら、いっくらでも触ってやるけどな！」
「わ！　ちょっと、なにするんですか！」
　くしゃくしゃと髪をかき回されて声を上げた立向居だが、綱海の手はやはり暖かくて、ふわふわと嬉しい気持ちが溢れてくる。
　いくらでも……そう言ってくれたのだから、もう少しだけ欲張ってみても許されるだろうか？
「あのっ、綱海さん！　だったら……その……」
「うん？」
「オレのこと、ぎゅって抱きしめてもらえません、か……？」
　言いながらまた照れて、どんどん頬が赤くなるのがわかった。そんな立向居に、綱海は笑って両手を伸ばした。
「なんだ、それぐらいお安いご用だぜ」
　ぎゅっと包み込むように立向居を抱きしめた綱海が、ぽん、ぽん、と背中を叩いてから離れてゆく。
「これでいいか？」
「……はい。……あれ？　……うーん……」
　けれど、それは立向居が期待していたものとは少しだけ違っていた。綱海の腕は嬉しい。けれど何かが足りない気がする。
「あっ！　そうか！　……綱海さん、もう一回いいですか？」
　はっと気がついて、立向居は離れてしまった綱海に詰め寄った。
「今度はもう少し、恋人らしく抱きしめて欲しいんですけれど……」
「恋人らしくって、お前……！」
　おずおずと遠慮深いように見えが、こんな時の立向居はきっちりと自己主張をすることにしている。逆に普段は気軽にスキンシップを仕掛けてくる綱海は、恋愛の色が濃くなった途端にこうして動揺を見せるのだ。
「……う、……そうだな。さっきとどう変えればいいのかよくわかんねぇけど……こんな感じか？」
　動揺しつつ、それでもリクエストに答えてくれた綱海の腕は、先ほどのおおらかで爽やかな触れ方とはまた違って、どこかぎこちない。
「そうですね……オレはこういう感じがいいです」
　言いながら、立向居は綱海の背中に腕を回し、自分より少しばかり背が高く、少しばかり逞しい身体を抱き寄せた。
「おおっ!?　あ、そっか、こう……か」
　抱きしめた腕の中で一瞬硬直した綱海だったが、すぐに立向居と同じように力を込めてくる。……二人の頬が寄って、肩に顎が埋まる。
「あ……」
　ふわりと幸せに包まれて、立向居はそこで唐突に理解した。特別なのは、なにも綱海の手だけではない。綱海そのものに決まっている。
　特別な綱海が触れてくれるから、その手は特別な暖かさを立向居にくれるのだ。
「綱海さん……ありがとうございます」
　触れただけで伝わるほどの愛情が嬉しくて仕方がない。
「おう」
　満面の笑顔を浮かべる立向居を抱きしめたまま、綱海もまた、照れた笑顔で頷きを返した。


　＊　＊　＊　＊　＊

何をどうすると綱立じゃなくて立綱になるの？
みたいな話になっちゃった気も。まあいいか！

考えてみたら、オフの話もこっちも立向居→綱海ですね。
綱海さんからも矢印出てるんだよーって話も書きたいなぁ！