７ 幸せ／10の優しい恋（完了）

円風でお題　「10の優しい恋」　（モモジルシ様からお借りしました。）
順不同、スローペースで展開予定。どれも多分短いです。

１　遠くにいても　（済）
２　君の歌　（済）
３　おでこにキス　（済）
４　永遠を教えてあげる　（済）
５　逃げないで　（済）
６　大丈夫　（済）
≫７　幸せ　（クリスマス円風。付き合ってます。）
８　愛してる　（済）
９　包んだ手　（済）
10　ずっと一緒　（済）

　＊　＊　＊　＊　＊


「知ってる？　クリスマスツリーの下でね……」
「へぇ！　いいな、それ。クリスマスらしくて」
　すれ違ったカップルの会話に気を取られてしまう。
「クリスマス……か」
　別に浮かれるようなことじゃない。そう思いながらも、風丸は隣を歩く恋人……円堂に視線を投げた。
　後方の、ちょうど今すれ違ったカップルの方向をなにやら振り返っていた円堂が、風丸の視線に気付いて笑顔を返してきた。
「どうした、風丸？」
「いや、なんでも。……クリスマスだなって思っただけだよ」
　この時期、街はきらびやかなイルミネーションで埋め尽くされ、あちこちにツリーやリースが飾られている。
　もちろん、今二人が歩いている駅前もクリスマス色にきらきらと輝いていた。
「ああ、クリスマスだよな！」
　答えた円堂の声は、イルミネーションに負けないぐらい楽しそうで。
「なあ、風丸はサンタクロースに何を貰うんだ？」
　無邪気に尋ねられ、風丸は危うく転びそうになる。
「サンタってお前、いくつだよ！」
「え？　風丸と同じ年、だけど……？」
「いや、いい。なんでもない」
　何か問題があるのかと訴えてくる視線に、風丸は苦笑しながら首を振った。
「そうだな……オレが貰うとしたら、速さかな。もっと速く走れるようになりたいから」
「それって、サンタから貰うのは難しいんじゃないか？」
「はは、そうかもしれないな」
　風丸の軽口に、真面目に答えろよなーとむくれた円堂が、ふっと上を見上げた。
「あっ」
「ん？　……ああ、デカいツリーだな」
　見上げると、大きな街路樹に飾り付けられたイルミネーションがちかちかと輝いていた。
　こんな所に植えてあるのだから、まさかモミの木ではないのだろう。それでもこうして飾ってあれば立派にクリスマスツリーに見える。
　そんなことを考えていた風丸の袖を、円堂がちょいちょい、と引っ張った。
「風丸、風丸」
「なんだよ」
　視線を下ろした風丸の頬が、円堂の両手で包まれる。
　あ、と思った瞬間に、寒さですっかり冷えてしまっている円堂の唇が、風丸のそれに触れて、離れた。
「お、まえ……！」
　思わず唇を押さえ、風丸は慌てて、ぐるりと辺りを見渡した。幸い、知った人影は見あたらず、こちらを注目している視線も感じない。
「何やってんだ、こんな所で！　もし誰かに見られたらどうするんだよ」
　ごめん、と口では謝りながら、円堂が達成感に溢れた笑顔を風丸に向ける。
「でもさ、クリスマスツリーの下でキスしたら、幸せになれるって」
「あ……さっきの……」
　『クリスマスツリーの下でキスを交わすと幸せになれる』
　すれ違ったカップルが話していたそんな会話は、円堂にもちゃんと聞こえていたらしい。
　……たとえ迷信やまじないのようなことであっても、幸せになれるのなら歓迎するし、キスだって嫌いじゃない。
　けれど、こんな風に場所を考えずに仕掛けられるのは困る。
　少し考えて、風丸は唇の端に、少し意地の悪い微笑みを浮かべた。
「ツリーの下でキスすると幸せになるなんて、聞いたことないな。円堂、それ本当なのか？」
　突然のキスで困らせられた分、円堂のことも少し困らせてみたい。そんな風丸の思惑は、しかし円堂には通じなかった。
「うん、きっと本当だと思う。オレ、今すごく幸せだから」
「……っ！」
　不覚にも跳ねた鼓動に、風丸が息を飲む。
「なあ、風丸は？　幸せじゃないか？」
　風丸の手を取ってそう尋ねてきた円堂に、風丸は一瞬目を細め、そしてゆっくりと息を吐き出した。
「……まあ、クリスマスだしな……」
　繋いでいる手を引いて、風丸は一歩、円堂と距離を詰める。
「オレも……幸せだよ、円堂」
　ツリーの下で、二人の唇はもう一度、重なった。　


　＊　＊　＊　＊　＊


メリークリスマス！せっかくだからめいっぱい仲良くさせてみた。

オフィシャルでは若干（若干？）シビアな展開の円風だけど、
ちょっとやそっとの喧嘩じゃ壊れないのが幼馴染の絆だって思います！

そんな二人の「優しい恋」１０題、でした。
ここまでお付き合い、ありがとうございました！