SS「トラップ」

だいぶ短いけど、
豪炎寺と風丸と円堂な小説投下です…！

なんだか仲良し、部室にて。　

　＊　＊　＊　＊　＊

　ギッ、と派手に鳴った音にそちらを向けば、部室の古い椅子を傾がせた風丸の姿が見えた。
「じゃあ、それで決まりだな」
　少し考えごとをしていた豪炎寺には内容まではわからないが、風丸は机を挟んで向かい合っている円堂と、何か話し合いをしていたらしい。
「ああ、よろしくな、風丸！」
「まかせとけよ」
　そう言って立ち上がろうとした風丸が、突然『いっ』とも『だっ』ともつかない声を上げて背を反らした。
　そのまま、がたん、と再び椅子に収まってしまう。
　……円堂が目を丸くして訪ねる。
「どした？」
「……ってぇ～。なんだよ……」
　風丸が後頭部を押さえる。回り込んだ円堂が、あー、と唸って眉を寄せた。
「風丸、髪が引っかかっちゃってる」
「ええ!?」
　豪炎寺のいる側からでは見えないが、さっき傾がせていた椅子のどこかに、あの長い髪を絡めてしまったらしい。
「はぁ…ツイてねぇ…」
　ため息をついた風丸が、あまり動かせない頭をなんとか回して後ろを伺う。そのままぐっと力を込めて髪を引いてみたようだが、風丸が解放される様子は見えない。
「待ってろ、今取ってやるよ」
「あ、ちょっと待て円堂！　……っ、痛い痛い！　力任せに引っ張るな！」
　どう見ても器用には見えない円堂だ。親切が見事に裏目に出ている。
　ぎゃあぎゃあと騒いでいる二人を見かねて、豪炎寺は寄りかかっていた窓枠から背中を離した。
「……見せてみろ」
「「豪炎寺」」
　重なった二人の声を気にせず、椅子と風丸をぐるりと回り込めば、円堂がさっと場所を空けた。
「頼む」
「ああ。……風丸、髪を触るぞ」
　律儀に一言断ってから、状況を見ようと片膝を付く。一度は避けた円堂も、豪炎寺の手元をのぞき込んだ。
「どうだ、豪炎寺？」
「そうだな……なかなか手強そうだ」
　青い髪は椅子の背とパイプの間に、予想以上にがっちりと挟まってしまっていた。
「外れそうにないか？」
　すっかり困り顔の風丸が珍しい。
「いや、挟まった以上は外れるだろ」
　手を出した以上はなんとかしてやりたくて、豪炎寺は少し考える。
「……そうだ風丸、さっき椅子を傾けていたな？」
　横で聞いていた円堂がぽん、と手を打った。　
「あ！　その時に挟まったのか！　だったらまた同じようにしたらいいんじゃないか？」
「そういうことだ」
「わかった。やってみる」
　真剣な顔で風丸が椅子を傾がせると、さっきと同じ、派手な軋みが響いた。
　まだ引っかかっていても風丸にダメージが行かないように気をつけながら、豪炎寺が髪を外しにかかる。
　すると、ほんの少し引いただけで、あれだけしっかり噛まれていたことが嘘のように、するりと毛先が外れた。
「あっ、取れた！」
「本当か円堂！？」
「気をつけろ、また挟むぞ」
　風丸が椅子を戻す間、毛先を持ち上げて避けてやる。
　そうっと立ち上がった風丸に合わせて髪を離すと、自由になった長い髪がふわりと揺れた。
「よかったな、風丸！」
「ああ。切る羽目になったらどうしようかと思ったぜ！……だけどあの椅子、危ないな。部室はともかく、机と椅子は新しくしてもいいんじゃないか？」
「うーん、そうだよなぁ」
　なにやら現実的な話をしながらも円堂と喜びを分かち合っている風丸の表情は明るい。
　そんな風丸と今の騒ぎに、豪炎寺はあるものを思い出していた。つい先日ＴＶでやっていたドキュメント番組だ。密猟者の心ない罠にかかった狼の子供を助ける内容だった。
「罠にかかった狼、か……」
「あっ、豪炎寺！」
「っ！」
　呟いた瞬間、風丸が振り返った。
　思わず息をつめた豪炎寺だったが、幸いなことに呟きは風丸には届かなかったようだ。
「ありがとな！　おかげで助かったよ！」
　礼と一緒に軽く頭を下げた風丸の背中で、解放された髪が嬉しそうに揺れる。
　その仕草がますます狼の子供を…もっと言ってしまえばその尻尾を思い出させて、豪炎寺は頷きながら、密かに笑いをかみ殺した。

　＊　＊　＊　＊　＊

風丸さん髪の毛話、第2弾。

本当は豪風を書こうとしてたはずなんですが、ただの３人仲良し話になった……。
だって仲良しですよね、あの３人は！（どんな理屈？）

でも、やっと豪炎寺さんが書けました…！

ちょっと風丸さんが子供っぽすぎたかな？
でも大人っぽくすると高校生みたいになっちゃうから難しいですわー。
もっと精進せねば…！